地元に素晴らしいニュースが届いた。
恵比寿出身のノンフィクション作家
川内有緒著の『空をゆく巨人』が
第16回開高健ノンフィクション賞を受賞した。
2014年には川内著の『バウルを探して』が
第33回新田次郎文学賞をしたばかり。
日赤生まれ・広尾小・広尾中育ちの
恵比寿のこづちで産湯をつかり
恵比寿ストアがわたしの青春でお馴染みの
ダブル受賞の快挙を成し遂げた川内有緒。
一体「川内有緒」とはどういう人物なのか
受賞記念インタビューをすることになった。
川内有緒
東京都恵比寿生まれ。広尾小学校・広尾中学校卒。日本大学芸術学部卒業後、アメリカ・ジョージタウン大学にて修士号を取得。 コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国連機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、面白い人やモノを探して旅を続ける。著書に『パリでメシを食う。』(幻冬舎文庫),『パリの国連で夢を食う』。第33回新田次郎文学賞を受賞した『バウルを探して~地球の片隅に伝わる秘密の歌~』(幻冬舎)第16回開高健ノンフィクション賞を受賞した『空をゆく巨人』(集英社)がある。
恵比寿新聞
おめでとうございます!
川内有緒
なんか面と向かって言われると恥ずかしい
恵比寿新聞
っていうと私まで恥ずかしくなってきた・・・いや、だって「近所のありお姉ちゃんがなんだか凄いなんちゃら賞を受賞したぞー」的なノリで大丈夫かなって。そういえば受賞発表の日どこにいたの?
川内有緒
あ。沖縄かな。
恵比寿新聞
えー(笑)いやいや。そういう時絶対呼ばれるから東京にいなきゃでしょ(笑)恵比寿新聞も選考委員の茂木健一郎さんのTwitterで知って「うぁ!まじ!?うぇ?」みたいになってました。
第16回開高健ノンフィクション賞は、川内有緒さん @ArioKawauchi の『空をゆく巨人』に決定いたしました。
おめでとうございます!
詳細は、添付の梗概をご参照ください。
受賞作は、現代アートの巨人、蔡國強さんと、いわきの志賀忠重さんの交流を通して絆の大切さ、芸術の可能性を描きます。 pic.twitter.com/d613A4O2Uk
— 茂木健一郎 (@kenichiromogi) 2018年7月7日
受賞舞台の裏側
川内有緒
実は受賞発表されたら会場にかけつけるっていう慣習を知らなくて。他の候補者の方は賞の選考が行われている帝国ホテル近くに滞在してたりするみたいだけど全然知らなくて・・・・というのも折角の受賞発表の日は家族で縁起を担いで沖縄にある「神の島」とよばれている「久高島」に滞在すると決めていたんです。
恵比寿新聞
そうだったのかー。神頼み的な。
川内有緒
16:00~17:00に受賞の連絡が来ると言っていたんだけど、全然電話が来なくて「やっぱり駄目だったのかなぁ~」と思って島にある近くの自動販売機で飲み物買おうとしたら自動販売機が壊れていて「くそ~自動販売機まで・・・」と思った矢先に出版社の方から連絡が来て「はい。受賞しました」
恵比寿新聞
え!?なにそのあっさりした伝え方(笑)「川内さん!!じゅ・・・受賞です!!受賞!!」みたいなテンションじゃなかったの?
川内有緒
うん。!その担当の方は結構あっさりした人なので「はい。受賞しました」と。
食堂でいちばん高いイラブー(海蛇)汁、2000円を頼んでご機嫌の夫。わすれがたい久高島の夜。 pic.twitter.com/t2sofdEXGz — 川内有緒 新刊「空をゆく巨人」11/26 (@ArioKawauchi) 2018年7月7日
家族の存在
川内有緒さんは生まれも育ちも恵比寿。
そして家族構成や経歴がとてもユニーク。
川内さんは元国連職員で退職後作家に転身。
そして川内有緒を説明するうえで
「家族の存在」は不可欠。あまりメディアは
触れられていないので折角なら触れておきたい。
恵比寿の小さなギャラリー「山小屋」は
川内さんのお母様「比佐さん」が店番をし
妹のさっちゃん(新谷佐知子さん)は
恵比寿でアートマネージメントをしている。
そして旦那さんの川内イオさんは
フリーランスのライターで「稀人ハンター」
として類稀なる才能の持ち主を追いかける
作家としても活躍中だ。
恵比寿新聞
色々と考えても凄い個性的な家族だなぁ~と思っているんですけど、まずは旦那のイオさんの話を。
川内有緒
イオくんね。
恵比寿新聞
出会いはどこだったんですか?
※そこにすかさず妹のさっちゃんが登場※
さっちゃん
えーっとね!もともとこの山小屋がgalleryの前は名刺屋さんやっていたんだよね!
恵比寿新聞
そうだったよね。確かにさっちゃんち名刺屋やってたよね。
さっちゃん
そこに世界一周するというイオくんが名刺を作りたいとお店に来店して。お母さん(比佐さん)がこの子面白いからうちの忘年会呼ぼう!っていきなり初対面のイオくんを身内しかいない忘年会に呼んだんだよね。
川内有緒
当時まだ私は国連勤務でパリに住んでいて丁度その日は年末で一時里帰り帰国していて。
さっちゃん
そして家の忘年会で二人は会っちゃったんだよね~。イオくんがもう遅いから帰るって時になったら「えー!?もう帰っちゃうの?」ってすごい勢いでお姉ちゃんが引き留めて。え?なんだかそんなお姉ちゃんが珍しくてみんなで「あれ?あれれれれ?」って(笑)
川内有緒
私のインタビューなのになんか外野がうるさいな~(笑)まぁそんなこんなでイオくんは世界一周の旅に出て、私はまたパリに戻ったんだけど、そんな世界一周中のイオくんがパリに遊びに来てくれて。
さっちゃん
それでね!でね!イオくんとお姉ちゃんは恋に落ちてイオくんの世界一周の旅は終了することになるんだよね~。
川内有緒
外野うるさいよー。という事で付き合う事になり。結婚して子供も生まれました。
恵比寿新聞
有緒さんにとってイオさんの存在はどういうもの?
川内有緒
んー。難しいなぁー。意識したことが無いけど本当に良き夫でありパートナーであり良き仕事仲間であり、最高のパパかな?結婚してイオくんは凄く変わったなぁーって。こどもの為に凄く時間を大切にしたりとか。本当にすごいなと。
恵比寿新聞
子煩悩っぷりは半端ないですもんね。ライターとしても稀人ハンターとしてもめちゃくちゃ面白い仕事してるし。凄い夫婦だ。妹のさっちゃんはどういう存在?
川内有緒
さちこはね。んー。小さいときは仲悪かったなぁー。毎日喧嘩してた。
さっちゃん
小学校の時わたし結構キツイ子でお姉ちゃんに文句ばっかり言ってたなぁー
川内有緒
よく私が泣いてた。母が「さちこ!たまにはちゃんとお姉ちゃんらしくお姉ちゃんを扱いなさい!」ってさちこが怒られるのを見て自分が情けなくて泣いてた。
さっちゃん
でもそれが中学2年ぐらいで逆転するんだよね~。急にお姉ちゃんが長ーい学生服のスカートと「じゃりン子チエ」みたいな片方の髪をゴムで結んで「うるせーよー!」とか「鈍器で殴るぞー!」ってちょっとスケバンみたいにグレた時期があって(笑)
川内有緒
ちょっと外野(笑)
恵比寿新聞
もうちょっと聞きたいな(笑)じゃりン子ちえの影響?!でもさっちゃんはどういう存在?
川内有緒
今は色んなプロジェクトで仕事する機会が多いから今は仕事のパートナーとしての側面が大きくて、妹なんだけど妹という関係性を超えてるなぁー。
母の存在
恵比寿新聞
比佐さん(母)はどういう存在ですか?
川内有緒
母はわたしが小さい時からリベラルな人だと思ってて、高校の時も夜遊びに行くときに「自分の責任で遊びに行くこと」と個人を尊重してくれていて。私が何故か警察にご厄介になることがあって(笑)
恵比寿新聞
やっぱりグレてたんやん(笑)
川内有緒
グレてない(笑)母が私を警察に迎えに来る時に凄い派手な服装で迎えに来て「どうしたの?その恰好?」って聞いたら「警察を威嚇する為」って言ってたのを思い出した(笑)
恵比寿新聞
凄いパンチあるはなし(笑)この間も道で比佐さんとばったりあって「お姉ちゃん受賞したんだね~」って立ち話してたんだけど「まぁあの子たちは自由にやってますから。おかげさま^^」って言ってて、大黒柱ぷりが半端なかったなぁ。
川内有緒
父が早くに亡くなったり、そんな父も結構おもしろいぐらい破天荒なところもあって。母は結構苦労している所もあるけど「家族一致団結力」は高いかも。うちの家族は。
恵比寿新聞
そっかー。そして比佐さんはお料理上手だもんね。この間恵比寿ガーデンプレイスの館内誌に載ってたね。そんなお母さんの料理で一番好きな料理はなに?
川内有緒
あっ!「牛肉ごぼう」!ほんとおいしい!
我が町恵比寿
恵比寿新聞
産まれも育ちも恵比寿なわけですが、ずっとこづちの上のマンション?
川内有緒
わたしが生まれた頃は恵比寿南のほうに住んでたんだけど、さちこが生まれた時にこの山小屋のあるマンションに引っ越してきたのかな。
恵比寿新聞
その頃から「こづち」あった?
川内有緒
あったよー。今のoucaの所がサンクロードっていうパン屋で恵比寿ストアにあった遠州屋ってお惣菜屋さんのきんぴらごぼうが大好物だった。
恵比寿新聞
そっかー。実はこの山小屋とこづちの入っているマンションって古いんですね。そういえば川内さんのSNSでたまに登場するジブリの鈴木さんも恵比寿に住んでますよね。
川内有緒
そう。鈴木さんちとは昔っから家族づきあいで今回の開高健ノンフィクション賞を受賞した「空をゆく巨人」の帯を書いてもらってます。
恵比寿新聞
実は比佐さんから恵比寿新聞社に頂いた座布団は鈴木さんからの御下がりって聞いて今も大切に使ってます。どういう幼少期を恵比寿で過ごしてた?
川内有緒
そうねー。学校から帰ったら山小屋(当時は比佐さんが布を売っていた)にランドセル置いてそのまま向かいの「ブックス海」っていう本屋さんに入り浸りしていたなぁ。
恵比寿新聞
今で言うとどの辺の場所?
川内有緒
delphi(デルフィー)っていう占い屋さんの場所が「ブックス海」だった。
ブックス海
恵比寿新聞
やっと作家「川内有緒」らしい取材になってきた(笑)その「ブックス海」で本の素晴らしさを知ったと?
川内有緒
そうですね。だって家の前から徒歩10秒だから高校生になると毎日居るので本屋の店長が「ちょっと出てくるから店番よろしく」って言われてもちゃんとレジの使い方もわかってるくらい入り浸ってた。小学校から高校になるまでずっと通ってました。
恵比寿新聞
そこで色んな本に出会ったんですな。「ブックス海」がなければ作家「川内有緒」は生まれてなかったかもね。※川内さんの「ブックス海」の思い出がnoteに書かれています。
川内有緒
そうですね。私の70%はその「ブックス海」で出来てるって言ってもいいほど。あと衝撃的だったのは大学に上がったぐらいに恵比寿ガーデンプレイスが出来て、その中にもうないけど「八重洲ブックセンター」があって。
恵比寿新聞
2017年に惜しまれつつも閉店しましたね。「八重洲ブックセンター」さん。そういえば以前「ガーデンプレイスの八重洲ブックセンターで随分昔にお父さんに本買ってもらった」って言ってたね。
川内有緒
そうそう。あれは嬉しかったなぁ。
恵比寿新聞
どんな本買ってもらったんですか?
川内有緒
「旅を書く」っていう今もその本が持ってて。ちょっと高い本でこんな高い本お父さんよく買ってくれたなぁって記憶はあって。その本はガルシア・マルケスとかリシャルト・カプシチンスキとかが短い短編の旅について書いている本で今読んでもとてもいい本で。
恵比寿新聞
でも街の本屋さんどんどん減ってるね。
川内有緒
本屋さんに行くとどんな本に出会えるかドキドキワクワクしていたけど、今の子はそういう街の本屋さんが無いから不憫に思ってる。
恵比寿新聞
川内有緒プレゼンツで「続!ブックス海」って企画展やったらおもしろいのにー。
土岐家の謎を追う
恵比寿新聞
小学校の時は広尾小学校だったんだよね?
川内有緒
そうそう。学区が広尾小学校だったから。
恵比寿新聞
あの辺も随分変わりましたよね。
川内有緒
そうだね。昔、広尾小学校の前にもの凄いモダンな洋館があって。同級生と一緒に「絶対あそこになにかあるはず!」という事になって。噂では「土岐家」の洋館だという話で、いわゆる小学校でも良くあるオカルト的な妄想話になっていて。謎を暴くために小学校の時に潜入したことがあって(笑)
恵比寿新聞
それだめなやつじゃん(笑)え!?どうやって潜入したの?
川内有緒
本当にすごい洋館で。まずピンポンをしたらそこに住むお婆様が出てきたので「私たち、卒業前の学校の奉仕活動の一巻で地域の人のお手伝いをすることになっています。掃除やお皿洗いや何でもできるので是非私たちになにか手伝わせてください」って伝えたんです。
恵比寿新聞
まじか(笑)それあかんやつやん(笑)
川内有緒
そしたら「うちにはそういう事お願いされてもすることが無いからまぁお茶でも飲んでいきないさい」ってその洋館に入ることができて。
恵比寿新聞
なんかすごいな。その話。
川内有緒
洋館に入ると広尾小学校の手すりと同じデザインの手すりがあって。「うぁ!やっぱり学校と洋館は何か関係があるんだ!」となって帰って来たのは良かったんだけど・・・
恵比寿新聞
だけど・・・???
川内有緒
そのお婆様がご丁寧にも広尾小学校に「そのような仕事はございませんので皆さんにお伝えください」と電話で伝えてくれたらしく。
恵比寿新聞
ほらあかんやつやん(笑)
川内有緒
その後「こんなこと考えるのは新谷(旧性)しかいない」って校長室に呼び出されて。
恵比寿新聞
っていうか今も昔もそんな探求心を行動に移せるのがホントすごいわ。。川内有緒の真骨頂ですな。
川内有緒
でも不思議なのは土岐家の洋館の手すりと広尾小学校の手すりが同じって不思議だな~と思って。きっと広尾小学校は土岐家の方が作ったのかもという話になって。
※実はその後調べてみたらまさに土岐家は1924年(大正13年)渋谷区広尾に自宅としてドイツ風洋館を建てたそうで、その後何もなかった広尾付近に人が沢山住み始め、目の前に小学校が建つこととなった時に自ら率先して地域の方と一緒に作ったのが「広尾小学校」だそうです。ちなみにこの洋館は現在沼田市沼田公園内に移築され見学もできるそうです。
作家以外の活動
恵比寿新聞
最近気になってるのは、なんだか小屋作ってません?
川内有緒
あー。作ってる^^
恵比寿新聞
あれは一体なんなんですか?
川内有緒
発酵デザイナーの小倉ヒラクくんの自宅がある山梨県塩山の土地を少しお借りして今家族や仲間で小さな小屋を建築中なんです。
恵比寿新聞
あー。最近恵比寿新聞もラジオ番組の収録で甲府に毎月行っていて小倉ヒラクさんの話は五味醤油の五味さんからも聞いてます。
川内有緒
そう!恵比寿新聞さんも甲府にちょくちょく来てるんだなぁ~と知ってた。
恵比寿新聞
いつ完成予定?
川内有緒
え?未定です(笑)根詰めて「造らなきゃ!」って焦りながらやるのも嫌だし、地元の親切な大工さんに教えてもらいながらゆっくりと予定も決めずに作っている感じ。できたら泊まりに来てね。
恵比寿新聞
よっしゃ。これでホテル代がうく。その他にも小さな図書館を作ったり、色んな所に旅に出たり、作家以外の活動がなんか面白いなーと思って。
川内有緒
思ったらすぐにやるタイプだから。そうそう11月23日から3日間面白い事をやるんです。
Ario’s Tea Party
恵比寿新聞
これはどういうイベント?
川内有緒
今回の本の出版パーティー的な位置づけなんですが、今まで私が出してきた本の登場人物や今まで作家として個人として関わってくれた人たちや読み手の皆さんを一堂に集めて「心の壁を壊そう」というイベントです。
恵比寿新聞
川内有緒という媒介を通じて作家読み手関係なくボーダレスに壁を壊そうという事ですね。
川内有緒
そうなんです。しかもお茶で壁を壊す。
恵比寿新聞
お茶!?
川内有緒
お茶は先ほど一緒に小屋を作っている発酵デザイナーの小倉ヒラクさんやアロマセラピストの和田文緒さん。タラブックスの伝道師でもあり装丁家の矢萩多聞さんが推薦してくれたお茶をお出しする予定です。みんなで同じテーブルを囲めば、少し心の壁が崩れるかなって。
恵比寿新聞
ほぉー。
川内有緒
23日~25日の3日間お茶ありトークセッションあり、写真の展示在りの3日間です。恵比寿のspace haloで開催予定です。是非遊びに来てほしい。
詳細はこちら
という事でお送りしました。
恵比寿にとっては非常に嬉しいニュース。
是非皆さんでお祝いを^^