さよなら菊代。6月2日で60年の歴史に幕。この通りから木造建築の家が消えていく。

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何から書き始めればいいのか・・・

既に書いては消し。書いては消し。

繰り返して今この文章を書いておるわけですが

結論から言うと恵比寿1丁目の老舗居酒屋

「菊代」が立ち退きの為60年の歴史に幕を閉じます。

お隣の「らーめん前川」さんは4月末で立ち退き閉店。

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この事実を知ったのは実は随分前で2月頃だった。

夜道をほろ酔いで歩いている時に菊代の大野さんと

ばったり。「最近体の調子どうですか?」なんて

お話しようと思ったら神妙な面持ちで大野さん

「実は菊代。今年の秋ぐらいに閉まるかも」

という話だった。いつかはその日が来るのは

わかっていたけど直接その話を聞いてショックで

その日は何していたのかも覚えてないほど。

しかも「秋」だと聞いていたのに閉店の日は

6月2日だという・・・早まってる・・・

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恵比寿新聞ごときが菊代の歴史を

話すのはいささか若輩者なのですが

「菊代」と言えば名物おばちゃんが

「なんでも相談は菊代(きくよ)」で

おなじみの60年続くお店で2011年に

高齢を理由におばちゃんが引退した。

引退後、菊代の常連だった大野さんがお店を

引き継ぎ運営を継続していた。

そんなおばちゃんも2016年に

天国に逝ってしまいました。

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立ち退きの話はこの辺では有名で

何年かに1回は話されるトピックでしたが

大体は「誤報」だったけど今回はホントだった。

そんな大野さんから電話があり「6月2日で閉めるんだ」

と連絡を頂いたのでその足で菊代に行ってみたら

既に昔からの常連さんで満席。だって60年だよ。

60年分の皆さんの思いが今集結していて

まぁ入り辛いったらありゃしないw

というのは冗談で本当にみんな顔は笑っているけど

心で泣いているというような状況だった。

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カウンターに座る場所がないので

奥の部屋に通された。この60年の間で

恵比寿新聞が知っている期間は16年ほど。

「おばちゃん!トイレ貸して!」というと

「家に上がれば奥にあるから適当に」と

言われてこの部屋を潜り抜けてトイレに

行ったもんです。

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ベロベロになってこの部屋で寝てしまった事も。

その時おばちゃんが軽く布団をかけてくれて

起きたら朝が空ける頃で。お店の引き戸が

少し空いていて「早く帰んなよ」って

引き戸が言ってるようで、次の日おばちゃんに

誤りに言ったら「まぁそんな日もあるよ」と。

その部屋は今もそのままの形で残ってる。

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この辺の高齢の先輩に聞くと

昔よく若いころには行ったもんだよ。って。

今や70代の人が言うんだからどれだけの

人たちがここで夜を明かしたのか。

1日10人が来て月25日営業したとしても

60年間で約18万人の人がこの「菊代」を

利用した計算になる。この狭いお店に18万人

が夜を明かしたって。。それだけ60年は凄い事なんだ。

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いよいよこの町にも建て替えの足音が聞こえてきた。

恵比寿ビール坂のやおさくに始まり、中華伊那閉店。

恵比寿新橋の大きな開発による全撤退立ち退き。

4丁目の木造クリーニング屋、そして今回の

恵比寿1丁目最古の菊代・前川の閉店と建て壊し。

ろおかり亭も閉店。言い出せばきりがない。

そして今年・・もう一つ恵比寿ビール坂の

あの建物まで・・・・どんどん風景が変わっていく。

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日本の古き木造建築がどんどん町から消えていく。

そして古き良き人情や風習も消えていくのか。

お金のことを考えれば立て替えて新しいビルにして

貸したほうがそれはよっぽど儲かるだろうけど

なんだかみんな同じ町の風景になってしまうような

気がして。。どうにかこの歴史的な建造物を

町の人たちで守ったりできなかったものなのかと。

そうやって「沈黙」のなか、風景がどんどん

均一化されてアップデートされていくんだろう。

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そんな閉店を前にした大野さんに話を伺った。

恵比寿新聞
もうなんとも言えない心境・・・・

大野さん
しょうがないよね。前川さんが閉めるってことになってこっちも早めに閉めてくれって事だから何にも言えないよね。

恵比寿新聞
急な話だから情報が全土に伝わっているかどうか心配っすね。

大野さん
まぁ急だったからね。。

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恵比寿新聞
大野さん。この後どうされるんですか?

大野さん
うーん。。実はね。。

恵比寿新聞
ん?

大野さん
今回の閉店を聞いて恵比寿2丁目のとあるお昼しかやってないお店から「夜おでん屋やってみませんか?」って声が掛かってね。

恵比寿新聞
あ。もしかして。。恵比寿新聞でも取材した場所は教えられないけど昼飯美味いって店ですね。

大野さん
そうそう。そこでお店を開かせてもらうんだよ。

恵比寿新聞
それは良かった。さすが人情の町だな~。

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実は菊代でバイトしていたまりちゃんが

この日最後の日だった。彼女が菊代で働くという

話が本当に良い話で。お疲れさまでした。

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もうこの風景を見るのは最後です。

「菊代」へ通っていたお客さんは最後の

この風景を拝みに行ってみてはいかがでしょうか?

営業は6月2日(土曜日)までです。

20年後・30年後「そういえば在ったよね菊代」

と思い出せるように記事で記録しておきます。

とにかく大野さんお疲れさまでした。

そしておばちゃん。60年間ありがとう。

 

現在大野さんは恵比寿2丁目の「カフェドゥポワソン」で夜の部を営業されているとのことです

2018.10.10追記

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